読書記録45

ハンマー・オブ・エデン―エデンの鉄槌 (小学館文庫)

ハンマー・オブ・エデン―エデンの鉄槌 (小学館文庫)

人工的に地震を発生させることができる。それを誘発させる機械を手に入れた
プリースト率いる北カリフォルニア、シルバー・リバー・バレーで平和に暮らすコミューンが、環境テロリストとなり、州知事を脅迫する。そもそも、州の発電所建設によって
つくられるダムのため、自らのコミューンが水没するという存亡の危機を回避するための窮余の策だった。
この物語がすごいところは、「本当に地震を誘発させた」ところにある。フォレットは、
この題材で、本書を凡百のパニック小説にすることなくあくまで抑えた筆致で、
イムリミットを定めて行動するプリースト側の作業を軸にしたサスペンスに
仕上げている。
相対するのはFBIの女性捜査官ジュディ。彼女は、他のフォレット作品のヒロインたちと同様に、機転が利き、勇敢で、負けん気が強いタフな女性である。彼女は地震学者
マイケルの助けを借りながら、集められた証拠を元にプリーストにひたひたと迫る。
とにかく着想がユニークというか、スケールが大きい。
また登場人物たち、特にプリーストとジュディの心理描写がいちいち丁寧で、それだけで読者は感情移入してしまう。それらがあいまって、フォレットのわかりやすい簡潔な
表現で、時系列に進むストーリーに、これだけの長い物語をスイスイ読ませてしまう。
本書は、環境問題に人工地震発生メカニズムという一見荒唐無稽な要素を取り入れ、なおかつ“エコ・テロリスト”と化したプリーストたちと“強い女”ジュディとの攻防をスリル満点に描いたエンターテインメントである。