読書記録47

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・チャイルド(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

本書は、「早川書房創立65周年&ハヤカワ文庫40周年記念作品」である。
デビュー作『キングの死』、『川は静かに流れ』に次ぐ第三作だが、’09年度「CWA
(英国推理作家協会)賞」の最優秀スリラー賞と’10年度「MWA賞」ベスト・ノヴェル
(最優秀長編賞)を受賞、アメリカにおけるミステリーの最高峰MWA賞は『川は静かに流れ』(’08年度)に続いて2度目の受賞となった。
13才の少年ジョニーの家族は1年前に崩壊した。双子の妹アリッサが誘拐されて
行方不明になり、ほどなく父親も謎の失踪を遂げた。住む家も失い、残された母親は薬物におぼれるようになり、ふたりの住居の世話をした父親の雇い主の実業家ケンが母親目当てに足繁く訪れるようになる。
しかしジョニーは、学校を頻繁にサボり、ひたすら家族の再生を願って、独自に資料を集め、ひとりアリッサの行方を捜し続ける。一方刑事のハントもメリッサの事件に
のめりこみ、妻に逃げられ、思春期のひとり息子との関係に苦慮している。
だが、ようやく事件が動き出す。脱走した服役囚、殺害された大学教授、ジョニーが
目をつけた性犯罪常習犯。それらの人々が絡み、謎が解け始めるのだ。しかしひとつの謎の先が見えてくると、また別のものがあらわれたりして、ミステリーとしての興趣の点では、本書は前2作を上回る。さらに、文中に太文字で挿入されるジョニーやハント刑事たちの“モノローグ”のような内面描写が実に効果的で臨場感を増している。
読者は、けなげで勇敢で強い意志を持ったジョニーの行動や、ハント刑事の執念の
捜査や推理を追ってゆくうちに、意外で、なんともやりきれない真相にたどりつく。
そこでも真犯人一家の家族崩壊が見られる。物語の最後の一行で読者はなんとか
救われたような感慨を持つのだが、本書はミステリーらしい謎解きとあいまって、
アメリカ・ミステリー界の「新帝王」とも称されるジョン・ハートが訴えかける家族崩壊の悲劇の物語でもあり、味読に値する秀作である。