読書記録72

平原の町 (ハヤカワepi文庫)

平原の町 (ハヤカワepi文庫)

現代アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーによる<国境三部作(ボーダー
・トリロジー)>の第3作完結編。第1作『すべての美しい馬』のジョンと第2作『越境』のビリーが競演する。
1952年、19才になったジョンは28才になったビリーたちとニュー・メキシコ州の牧場でカウボーイとして働いている。ある日、仲間と国境を越えたメキシコの娼館へ行き、そこで16才の娼婦マグダレーナと恋に落ち、なんとでもして結婚しようとする。
直情径行なジョンのあまりにも無謀な行動に、ビリーや牧場主たちは、初めは反対
するが、彼の熱い思いにほだされて、呆れながらも協力しようとする。しかし娼館の
経営者エドゥアルドがその前に立ちはだかる。クライマックスのジョンとエドゥアルドのナイフによる死闘は圧巻である。物語は前2作よりもストレートで読みやすいといえるが、ジョンとマグダレーナの熱愛は悲劇的な結末を迎えることになる。
本書は、時代によって“失われてゆく西部”を舞台にした活劇ウェスタンであると共に、ある青年の命をかけた“運命のラブストーリー”である。
ビリーは、このジョンの物語の傍観者・脇役として立ち回るのだが、最期のパートで、
2002年で78才となり、浮浪者のような生活をしている。そこで同じような生活を
している男から自分の見た夢について聞かされるくだりで締めくくられる。
「哲学」と「幻想」と「神」と「詩」を織り込ませながらも、マッカーシー独特の文体で克明なリアリズムを追及して語りつがれてきた<国境三部作>のラストにふさわしい、
実に思弁的な終わり方である。今、私はこの三部作を読み終えて、深い感慨にふけるというよりは、しばし呆然としてしまった。