読書記録81

五番目の女 上 (創元推理文庫)

五番目の女 上 (創元推理文庫)

五番目の女 下 (創元推理文庫)

五番目の女 下 (創元推理文庫)

スウェーデン・ミステリー界の大御所ヘニング・マンケルによる<ヴァランダー警部>
シリーズ第6弾。
前作の、CWAゴールド・ダガー賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」海外編で
第9位にランクインした『目くらましの道』から実に3年半、待ちに待った邦訳刊行
である。
父親とのイタリア旅行を終えて、イースタ署に戻ったヴァランダーを待っていたのは
スウエーデン南部といえどもスコーネ地方の日本の真冬のような気候と雨続きの日々に発生した連続猟奇殺人事件だった。
元自動車販売業者で、詩を書くバードウォッチャーの老人が、竹槍の仕掛けられた
濠で転落し串刺しにされて殺されているのをヴァランダー自身が発見。さらに押し込み事件があったものの何も盗られたもののなかった花屋の主人が数週間の監禁の後、絞殺死体となって木に縛り付けられているのが見つかる。プライベートでは、父親が
突然死してしまう。楽しかったイタリア旅行の思い出にひたる暇なくヴァランダーは
公私ともに忙殺されるのだった。
ストーリーは、ヴァランダーとお馴染みのイースタ署の面々の地道な捜査活動が
綴られるが、タイトルの『五番目の女』との関連も含めて、上巻はもとより下巻の中ほどまで手がかりはもちろん、事件解決のめどすら立たない。そして3番目の犠牲者が・・・。
本書でも、このシリーズの例によって、犯人側の行動描写の挿入に謎解きの興趣と
サスペンスをかきたてられ、ヴァランダー自身のなぜか笑ってしまうようなエピソードを楽しみながら、読者は、現代スウェーデンが抱える社会問題を背景にした、
オーソドックスな警察捜査物語を、ヘニング・マンケルの巧みな筋運びでどんどん
ページを進んで飽きることなく読み進むことになる。