読書記録84

凍る夏 (講談社文庫)

凍る夏 (講談社文庫)

本書は、のちにアメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家
クラブ)賞」を3度も受賞する―ベスト・ノヴェル(最優秀長編賞)2度(’02年度:
『サイレント・ジョー』、’05年度:『カリフォルニア・ガール』)、ベスト・ショート・ストーリー(最優秀短編賞)1度(’09年度『スキンヘッド・セントラル』)―T・ジェファーソン
・パーカーが、’93年に発表した彼の初期のデビュー第4作目の長編サスペンス
である。
‘わたし’こと元警察官で現在はクライム・ライターのラッセル・モンロー40才が、
ある冬に、その暑い夏のアメリカ独立記念日前夜の7月3日からほぼ10日間に渡る恐怖と戦慄の日々を振り返って語る。
‘ミッドナイト・アイ’と自称する連続殺人鬼がカリフォルニア州オレンジ・カウンティーで「人種の浄化」を目的に白人以外の家族を次々に惨殺していた。‘わたし’の、子までなした元愛人アンバーも同様の手口で殺されているのを‘わたし’が発見するところ
から物語は始まる。しかし、アンバーは生きていてその姉が‘ミッドナイト・アイ’の犯行に見せかけて殺されていたのを知る。
‘ミッドナイト・アイ’とは何者なのか。またアンバーの姉を惨殺した真犯人は誰
なのか。謎を孕みながらもストーリーはこちらがメインといってもいい、もうひとつの柱
である脳腫瘍を患った‘わたし’の妻イザベラに対する献身的な夫婦の愛情物語、
またアンバーと‘わたし’の間の娘グレースとの親子の愛情が並行して語られる。
本書は、酸鼻を極める殺人事件を中心に据え、究極のピンチに見舞われながらも
貫き通す‘わたし’の夫婦愛、親子の愛情を苦悩に満ちた哀愁漂う一人称で綴った、
ラブストーリーといえるだろう。