読書記録83

戦場の画家 (集英社文庫)

戦場の画家 (集英社文庫)

著書は20冊を超え、翻訳出版は51カ国、ミステリー、歴史冒険小説をはじめ、幅広いジャンルでヒットを連発する、今や絶大な人気と尊敬を集めるスペイン最大の作家
アルトゥーロ・ペレス・レベルテが’06年に発表した小説。
地中海を望む望楼で、戦争風景の壁画を描いているフォルケス。ある日、マルコヴィチと名乗る元クロアチア民兵が訪ねてくる。フォルケスの記憶にはないが、マルコヴィチは10年前の旧ユーゴ紛争中にフォルケスに一枚の写真を撮られていた。その写真によりフォルケスには名声と栄誉がもたらされたが、マルコヴィチには拷問と悲劇の連鎖を引き起こしたという。その清算に、「何年もさがしまわり」、「あなたを殺すため」に来たと言う。
ここに、6日間のフォルケスとマルコヴィチの対話をストーリーの軸として、画家になる前、「戦場カメラマン」だった頃のフォルケスと、戦地で命を落とした彼の愛人オルビドとの、かの地での冷酷で残虐さに満ちた、そして男女の深く厳しい愛の日々など、
さまざまなエピソードがよみがえる。
果たしてマルコヴィチは当初の目的を果たすことができるのか・・・。やがて壁画は
完成する・・・。
さすがは、イタリアとフランスで文学賞を受賞しただけあって、決して長い物語では
ないが、モチーフとしてギリシア・ローマの古典や神話に拠る示唆は多く、引用される画家、写真家、詩人をはじめとする学者たちは、古代から20世紀に及ぶ。これらの
膨大な資料は巻末にまとめられているが、なるほど本書は、テロリズム、密輸、
国際紛争を専門に取材する「戦場記者」としての21年に及ぶ歳月と経験を生かした
レベルテの集大成ともいえる作品である。