読書記録85

心の昏き川 (上) (文春文庫)

心の昏き川 (上) (文春文庫)

心の昏き川 (下) (文春文庫)

心の昏き川 (下) (文春文庫)

本書は、アメリカの超ベストセラー作家ディーン・クーンツが’94年に発表した、文庫にして上・下巻981ページにおよぶ、エンターテインメントの王道を行くサスペンス大作である。
愛犬ロッキーを伴い、顔に大きな傷痕を持った元ロサンジェルス市警の捜査官
スペンサーは、サンタモニカのバーで“運命の女”と出会う。しかし翌日再びバーを
訪れると彼女ヴァレリーの姿はなかった。スペンサーはヴァレリーの自宅へと行くが、そこで武装した謎のSWATチームの急襲に遭遇する。ここからスペンサーの
ヴァレリー探しと謎の機関からの逃避行が始まる。そして章が変わり、ロイ・ミロという謎めいた超政府機関の工作員が登場し、スペンサーの視点とロイの視点で交互に
ストーリーが進んでゆく。
あらゆるコンピュータ記録に存在しない女ヴァレリーとは何者なのか、なぜ彼女は謎の機関から追われているのか。そして渦中に巻き込まれたスペンサーの運命は・・・。
きわめて現代的な最先端のハイテク機器や最先端情報網を駆使した、危機また危機の、手に汗握る<追跡と逃亡>劇が展開するのだが、やがてスペンサーが顔の傷
だけでなく心にも大きなトラウマを抱えており、偽りの身分で暮らしていることが
分かり、またヴァレリーも暗い過去から決別するために身分を変えていることが
分かる。巨大な謀略をめぐる展開に呼応するかのようにヒーロー・ヒロインが抱く
個人的な恐怖へも肉薄しているのだ。
本書は、稀代の“ストーリーテラー”クーンツがつくりあげた、ホラー、SF、ロマンス、
サイコ、猟奇、謀略、ポリティカル、社会派、リーガルなどいくつものジャンル小説
要素を盛り込みつつ、<追跡と逃亡>という究極のサスペンスと謎を中心に据えた
一大巨編である。