読書記録86

はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

クリスチアナ・ブランド女史の代表作といわれる本格ミステリー。’55年発表、日本には<ハヤカワ・ポケット・ミステリ>で’59年に初紹介された。
イタリアの景勝地を巡るイギリス人30名の団体パッケージツアー。一行はやがて代々大公が独立統治する地中海の孤島リゾート(架空の島)に到着する。そこで宮殿見物に参加しなかった、休暇でツアーに単身参加するスコットランドヤードのコックリル警部とツアーガイドを含む8人は殺人事件に出会う。ホテルの部屋でツアー参加者の若い女性がナイフで刺殺されたのだ。その間被害者を除く7人はいずれもビーチ周辺で過ごしており、それはコックリルが証明できる。能天気な官憲の捜査に不安を感じた
コックリルは自ら捜査に乗り出すが、容疑者であるツアーの面々はいずれ一癖も二癖もあるひとたちばかり。やがて少しずつ明かされてゆく彼ら彼女らの素顔・・・。
クローズドサークル内でのフーダニット、個性的で次々と最重要容疑者となるツアー
参加者たち、英国ミステリーらしい辛辣な皮肉と機知に溢れながらもどこか人生に
対する鋭い考察が見え隠れする会話(とにかくみんなよく喋る)、巧妙に張り巡らされた伏線、人間入れ替わり、盲点を利用した時間差攻撃、どんでん返しとその先に待っていた意外な結末、そして大胆なトリック。
本書は、これら「本格のコード」満載の、’30年代黄金期の本格ミステリーを正統に
継承した英国パズラーの名品である。