読書記録88

wakaba-mark2010-10-21

戦争の犬たち (上) (角川文庫)

戦争の犬たち (上) (角川文庫)

戦争の犬たち (下) (角川文庫)

戦争の犬たち (下) (角川文庫)

’71年、小説デビュー作『ジャッカルの日』で“ドキュメント・スリラー”と呼ばれる分野を生み出し、’72年度のMWAの最優秀長編賞を受賞したフレデリック・フォーサイスが、’74年、本書で“国際謀略軍事ドキュメント・スリラー”に挑んだ。本書も前2作
(『ジャッカルの日』『オデッサ・ファイル』)同様映画化されている。
西アフリカのザンガロに世界的に稀少なプラチナ鉱脈があることを知った英国の
大資本マンソン合同鉱業の会長ジェームズ卿は、その採掘権を独占して巨万の富を手に入れるため、軍事クーデターを起こしてザンガロの独裁者キンバ大統領を倒し、傀儡政権を建てようという恐るべき陰謀をはかる。この鉱山王はパリ在住の白人傭兵のリーダー、キャット・シャノンに自らの企みを託す。
ストーリーは、ジェームズ卿から巨額の報酬を約束されたシャノンが、依頼を
引き受けて、傭兵仲間4人を集め、100日後にクーデターを起こすための具体的な
準備行動のディテールを刻々と綴ってゆく。再びアフリカの地で戦うことに対して傭兵
としての血が騒ぎながらも沈着冷静に作戦を推し進めるシャノン。
訳者の「あとがき」によれば、このストーリーは、フォーサイス自身がスポンサー
となってクーデターを企画して実行し、そして失敗した実体験をもとにしているという
ことだが、なるほど物語の大半を占めるシャノンの準備行動には迫真のリアリティーがあり、読者を惹きつけて離さない。
かくしてクーデターは実行に移されるのだが、ラストにはジェームズ卿の企図したものとは異なるフォーサイスのアフリカに対する世界へのメッセージともいえるどんでん
返しが待っていた・・・。
本書は、まさに“マスター・ストーリーテラー”と称されるフォーサイスの、初期の傑作
である。