読書記録89

アヴェンジャー〈上〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈上〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈下〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈下〉 (角川文庫)

“マスター・ストーリーテラーフレデリック・フォーサイスが’03年に発表した作品。
本書のタイトルにもなっている、主人公で51才の弁護士デクスターのコードネーム
「アヴェンジャー」とは、「復讐者、仇を討つ人」という意味がある。
このアヴェンジャーに託された仕事は、ボスニア紛争時の’95年5月にボランティア
として現地で働いていたアメリカ人の学生をなぶり殺しにした後、南米の某国に
高飛びしたユーゴ・マフィアでセルビア人の男・ジリチを捕らえることだった。
ここで物語は、若き日のデクスターのベトナム戦争従軍時のべトコンに対する苦闘の様子や、チトー亡き後の旧ユーゴのミシェロビッチ時代の民族紛争の詳細が綴られてゆく。この半世紀にもわたる描写は上巻の大半と下巻の半分にもおよび、ラストの
アヴェンジャーの単身で現地に潜入して、ジリチを逮捕するという結末に結びついて
ゆく。
例によって綿密な取材力と分かりやすく読みやすい抜群のストーリーテリングで、
フォーサイスは半世紀にわたる国際紛争の実態(これは私にとって大変勉強に
なった)と、アヴェンジャーによるCIAのテロ対策本部を相手取ったジリチ確保の闘いをドキュメンタリー・タッチで描ききっている。アヴェンジャーの緻密な準備段階からラストの、たったひとりで厳重な警備体制を崩してゆく作戦行動は圧巻である。
本書はそんなアヴェンジャーの活躍を通して、9.11前夜までの、戦争と紛争に
彩られた半世紀をフォーサイス流に描いた、“軍事ドキュメント・スリラー”の傑作
である。