読書記録98

闇よ、我が手を取りたまえ (角川文庫)

闇よ、我が手を取りたまえ (角川文庫)

“ボストンの鬼才”デニス・レヘインによる、<探偵パトリック&アンジー>シリーズの
第2弾。’00年、「このミステリーがすごい!」海外編で第8位にランクインしている。
はじめは、息子の命を案ずる女性精神科医からの依頼だった。ボストンの街を牛耳るアイリッシュ・マフィアとのトラブルとみたパトリックは躊躇するが、アンジーに背中を
押されて、ふたりは事件に飛び込む。しかしふたりを待っていたのは、この街が抱える底なしの闇だった。
次々に発見される惨殺死体。いつしかふたりはこの連続猟奇殺人事件に
巻き込まれる。被害者たちをつなぐミッシングリンクを探るうちに、パトリックは亡き父親の秘密にたどりついてしまう。そして、さらに殺人鬼は、自分たちとパトリックの
恋人親子、アンジーの元夫までをも標的にして迫ってくる。
物語の後半は、サイコパスでソシオパスのシリアルキラーとふたりの、文字通りの死闘が繰り広げられる。それは生半可なものではなく、パトリックとアンジーのふたりは、
自らの命はもちろんのこと、愛も、友情も、思い出までも殺人鬼の刃でズタズタに
されて致命的なダメージを受ける。「降りかかる圧倒的な暴力、絶対悪に対して、人はどう対処するべきであるか。」それこそが、短い章立てで畳み掛けるように綴られる、
この疾走感あふれる物語のまさに根底のテーマではないだろうか。
第1作『スコッチに涙を託して』の中でみられた冗長な比喩と皮肉や軽口は、本書ではほとんどなく、深刻で重厚、それでいて抜群のリーダビリティーをもって進んでゆく。
そんな展開のなかで、連続猟奇殺人犯の凍りついた魂ばかりでなく、事件に
巻き込まれた人々の「心の闇」にまで迫った本書は、究極のハードボイルドといえる
だろう。