読書記録97

スコッチに涙を託して (角川文庫)

スコッチに涙を託して (角川文庫)

“ボストンの鬼才”デニス・レヘインの’94年のデビュー作で、5作続いた
<探偵パトリック&アンジー>シリーズの第1作。フロリダ州のカレッジで創作を学んでいたレヘインは「遊びのつもりで」書いたと言っているが、指導教官の目に留まり出版の運びに。PWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)が主催するシェイマス賞の’95年度
最優秀新人賞をみごと受賞した。
ボストンの中でも貧しいドーチェスター地区の教会の鐘楼の中に探偵事務所を開く、
その地区で生まれ育った‘わたし’ことパトリック・ケンジーはある日ふたりの上院議員から、9日前に失踪した掃除婦と、同時になくなった「重要書類」を探すよう依頼
される。彼女の家に行くと、もぬけの殻のうえ室内は何者かによって無残に荒らされていた。これがこの物語の発端であり、‘わたし’と、幼なじみで今はDV夫に悩まされる相棒のアンジー・ジェナーロのコンビは、「重要書類」を巡って、ギャングの抗争に
巻き込まれてゆく。
デビュー作ということで、ボストンの街の描写や説明、登場人物たちのキャラクターや背景が‘わたし’の冗長な比喩と皮肉と共に詳細に語られてゆく。しかもジャンルが
ハードボイルド私立探偵ものならではの激しい銃による殺し合いや積み重なる死体の数もハンパでない。また扱うテーマも、人種差別、貧富の差、政治、家庭内暴力
虐待、小児性愛、ギャングと、現代アメリカが抱える社会問題を網羅しており幅広い。
しかし何といっても本書の魅力は、ふたりの探偵といっていいだろう。貧民街に身を
置き、軽口を叩きながらも心と体に傷を負いボロボロのふたりが降りかかる事件にどう対処し、どういう行動をとるのか、知らない間にページがどんどん進んでゆく。
このシリーズは5作続くのだが、今後もこのふたりから目が離せない。