読書記録96

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』’10年11月号「2010年文庫翻訳ミステリー
・ベスト10」で「総合」同点第4位、「作家が選んだ」部門第13位、「翻訳家&評論家が選んだ」部門第3位にランクインした作品。
ボストン・テランといえば、まさに、狂気と狂騒の追跡劇・デビュー作『神は銃弾』が
’00年度「CWAニュー・ブラッド・ダガー=ジョン・クリーシー記念賞(最優秀
新人賞)」、’01年作品「第20回日本冒険小説協会大賞・外国軍大賞」をそれぞれ
受賞して、’01年「このミステリーがすごい!」海外編で堂々第1位に輝いたことで
知られているが、’04年発表の第4長編である本書は、これまでとは一転して趣の
異なる作品である。
この物語の主人公格のヒロインは3人ではないかと思う。ひとりは、駆け落ちに失敗し、堕胎手術を受けさせられたドイツ系のキャンディストアの店主フラン。ひとりは
生まれつきの聾者で、カメラで世間を撮り続けるイタリア系のイヴ。そしてもうひとりはイヴの母親で夫に痛めつけられても死ぬまでイヴに無償の愛情を降り注いだ
クラリッサ。
彼女たちは、ロクでなしの男たち、イヴの父親ロメインとイヴの恋人のチャーリーの
義妹の父親ボビーに対して一歩も引かず相対する。特にフランとイヴは、クラリッサやチャーリーの悲劇的な死を乗り越えてたくましくも生きるのである。圧巻は、ついに銃を手にイヴがボビーを殺しに行くシーンだ。
時代設定は1950年代から70年代半ばまでの、イヴが生まれてから大人の女に
成長する四半世紀。本書は、原題の『WOMAN』からうかがえるように、前3作の作風から≪暴力の詩人≫と称されるボストン・テランが、その激しくも美しい筆致で
「創造者」「保護者」「破壊者」・・強い女たちを描ききったその生き様を目の当たりに
する、魂が震える感動作である。