読書記録101

雨に祈りを (角川文庫)

雨に祈りを (角川文庫)

“ボストンの鬼才”デニス・レヘインによる、<探偵パトリック&アンジー>シリーズの
第5弾。’02年、「このミステリーがすごい!」海外編で第11位にランクインしている。
ひとりの若い女性が、全裸で身を投げた。彼女の名はカレンといい、パトリックが
半年前ストーカーの被害から救ったひとだった。裕福な家で大事に育てられた子女
というイメージがあった彼女がなぜ・・・。投身自殺の背景を探るうちに、死の数ヶ月前から信じられないような不幸がカレンを襲っていたことがわかる。フィアンセが不慮の交通事故で植物人間状態となり、文無しになり、失業し、住む場所も失い、麻薬に手を出し、売春までして、最後には精神に変調をきたしていたのだ。
アンジーとのコンビを復活させたパトリックは、ふたりで事件の調査に当たるが、何者かがカレンを追い込み、破滅へと導いていたことを知る。その悪意は、やがてふたりにも襲いかかるのだった。
本書のテーマは、「人がその人生と幸せとを築き上げる土台を、ひとつひとつ壊して
いったら、人はどうするのだろう」とレヘインは言っており、カレンに代表される普通の人々がいかに崩壊していくかが、緊張感あふれる筆致で描き出されてゆく。
そして人の風上にも置けないデモーニッシュな真犯人。
本書は、死人の数こそシリーズ中最も少ないが、悪の中でも最悪の部類の悪人が
登場することで、シリーズの異彩を放っている。
さて、5作続いたこのシリーズも本書を持ってしばらく封印とのこと。これまでの事件で肉体的にも精神的にもはかりしれないダメージを受けたふたりの探偵の復活を祈って止まない。