読書記録103

砂の王国(上)

砂の王国(上)

砂の王国(下)

砂の王国(下)

本書は、’08年3月号から’10年1月号まで「小説現代」に連載され、単行本化に
あたり加筆・修正がほどこされた、上・下巻に及ぶ、荻原浩の過去最長のボリュームを持つ大作である。
‘私’こと山崎遼一41才は、大手証券会社をクビになり、妻・美奈子に逃げられ、借金を重ね、住むところを放棄せざるを得ず、いまや所持金たった3円のホームレスに
なった。
‘私’は公園で出会った怪しげな占い師・錦織龍斎と行った浦和競馬場で大穴を
当てる。それを元手に‘私’は「自分を路上に捨てた世間」に逆襲を誓う。路上で
知り合った若い美形のホームレス・仲村を教祖に祭り上げて、龍斎と3人で新興宗教
「大地の会」を立ち上げるのだった。
ストーリーは、落ちるところまで落ちた‘私’の路上生活の日常から始まり、ふたりとの出会い、「大地の会」の事務局長・木島礼次と名を変えてふたりを裏で操り、見る間に会員数を増やして成功への階段をひた走る姿が描かれてゆく。そして、創設者で
ありながら自分では制御しきれなくなった「大地の会」。やがて訪れる悲劇・・・。
ホームレスへの転落。実は空虚で実体のない新興宗教。積んでも積んでも崩れ落ちる「砂の楼閣」。
一気に読み進めながらも、人生の成功・幸せってなんだろうと考えさせられる作品
である。
本書は、随所に独特の“荻原節”“荻原テイスト”をちりばめながら、コピーライター
という元職の才能をフルに発揮して書かれた、過去の全作品の“荻原エッセンス”が
すべて詰まった集大成ともいえる、“荻原ワールド”の決定版である。