読書記録106

謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで

本書は、小学館の小説誌『文芸ポスト』『きらら』に掲載された4編に書き下ろし2編
を加えた連作短編集で、発売当初から多くの書店員さんや読者たちの支持を得て
順調に版を重ね、東川篤哉のブレイク作なった。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第10位にランクインもしている。
東川篤哉は、’02年、『密室の鍵貸します』で、光文社カッパ・ノベルス新人発掘
プロジェクトの第一期「Kappa-One登竜門」を受賞しデビューした、ユーモア
本格ミステリー作家である。同期に本格パズラーとして活躍中の石持浅海がいる。
ちょいズレの中堅自動車メーカーのお坊ちゃま・風祭警部とともに殺人事件の捜査に当たった刑事、実は大企業グループのお嬢様・宝生麗子が(注:風祭警部が登場
しない殺人未遂事件である第四話を除く)、いきづまって一家の、というか彼女の執事兼運転手・影山に事件の詳細を話す。すると影山は麗子を馬鹿にするが如く鼻で
笑って、時にはタバコまで吸いながら、たちどころに真相を言い当ててしまう。
執事や給仕などが主人公の話を聞いただけで推理を開陳し、解決するという、同じ
趣向の短編・安楽椅子探偵(アームチェアー・ディテクティブ)は、海外ではアイザック
アシモフの『黒後家蜘蛛の会』の<給仕ヘンリー>、P・G・ウッドハウス
<執事ジーヴス>、国内では鮎川哲也の<三番館のバーテン>をはじめ数多く
みられ、ミステリーの人気ジャンルのひとつとしてすっかり定着している。
本書は、<執事兼運転手・影山>もさることながら、ヒロインの<宝生麗子>、脇役の<風祭警部>の「キャラ立ち」の妙と、「華麗かつカジュアル」な雰囲気、「令嬢と
毒舌執事コンビ」の会話、「コメディでありながら、ちゃんと伏線が張られた、分かり
やすい本格パズラーらしい謎解きショート・ストーリー」というプロットが際立っており、
それがこれだけヒットした理由であろう。