読書記録105

マリアビートル

マリアビートル

映画にもなった『ゴールデンスランバー』以来3年ぶりになる伊坂幸太郎の書き下ろし長編。本書は、『グラスホッパー』の続編とも言える、殺し屋たちの競演による一大
エンターテインメントである。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第3位にランクインしている。
舞台はとある10月の東北新幹線「はやて」の車内。東京駅から盛岡駅にいたる
約2時間半の<殺し屋>たちのドタバタ狂騒劇である。
盛岡にいるこの業界のドンらしき峰岸の命を受けた腕利きの殺し屋コンビ「蜜柑」
&「檸檬」や、どうも指示の出所が同じ峰岸らしい、不運にみまわれ続ける殺し屋
「七尾」らに、息子に重傷を負わされ復讐のための乗り込み、逆に捕まってしまい脅迫を受けるアル中の殺し屋「木村」、木村の息子を手にかけた犯人グループの首謀で
狡猾な中学生「王子」たちが、思いもかけぬ事態の連続に出くわし、密室状態の
「はやて」車内で物騒でいて、何か笑えてしまうバトルを繰り広げる。
例によってテンポがよく繰り出される軽妙洒脱な人を喰ったような彼らの会話は伊坂
テイストに溢れている。特に殺し屋中学生「王子」が語る薀蓄や疑問は妙に大人びていて達観しており、これは作者である伊坂幸太郎の意見というか持論でもあるかの
ようだ。
いずれにしても、根本がこれだけの単純なメインテーマで、ひとつの長編を書き下ろしてしまう伊坂幸太郎の力量に脱帽だ。
本書は、伊坂ファンにとっては充分楽しめる、疾走感に満ちた筆致で描かれた
伊坂ワールドの極地であり、ジャンル分類不能の<殺し屋>小説である。