読書記録104

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

シューマンの指 (100周年書き下ろし)

’10年7月の初版発行以来、全国の書店員さんやミステリーファンが大反響。
増刷が充分間に合わないほど話題を呼んだ、芥川賞作家・奥泉光クラシック音楽本格ミステリー。「講談社創業100周年」の記念出版「書き下ろし100冊」ラインナップの一冊。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第5位にランクインしている。
メインの物語は、里崎優という音大中卒の元ピアノを学んだ‘私’が、’08年7月に
約30年前のことを回想して記した手記の形で進んでゆく。本書の冒頭で旧友からの書簡で、右手中指を失った幻のピアニスト永嶺修人(まさと)が復活した旨を知り驚愕するシーンがあり、以後はこの物語の主役である彼と‘私’の身の周りのことが、
シューマンの楽曲の薀蓄とともに続く。
前半は19世紀のドイツの作曲家・音楽評論家でロマン派音楽を代表するひとり、
このロベルト・アレクサンダー・シューマンの作品世界の解説書かと思わせるが、語りの半分ほどで、ある女子高生殺人事件がおこり、‘私’がその目撃者となる。
その後は、この迷宮入りした事件の真相の謎が本書の中枢を占める。
終盤の二転三転する展開、そして最後の現代の‘私’の妹による手紙に記された
意表をつく真相(らしきもの)。ここまで読み通した者はまるで夢を見ているかのような恍惚感を味わうこと必至である。
主役の修人の名前がシューマンをもじった、シュー=修、マン=人であること。そして本書の初版発行日が修人の誕生日の7月23日であることなど、細かいところまで
’10年が生誕200年に当たるシューマンづくしの、凝りに凝った、いままで読んだことのない幻想的な異色のミステリーがここに誕生した。