読書記録117

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

『私の男』で’07年下半期「第138回直木賞」を受賞した桜庭一樹が、その以前に、
担当編集者から「“初期の代表作”を書いてください」と言われ’06年年末に発表した作品。見事、’07年上半期「第137回直木賞」の候補作となり(ちなみに受賞作は
松井今朝子の『吉原手引草』)、同年、「このミステリーがすごい!」国内編で第2位に、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第4位に堂々ランクインして、
「第60回日本推理作家協会賞・長編及び連作短編集部門 」を受賞した。
ところは鳥取県西部の地方都市。舞台は製鉄業で財を成した旧家。物語はその
女系家族三代に渡る戦後昭和・平成期の年代記である。といってもよくある重厚な
大河小説でも複雑なレトロ趣味の一大叙事詩でもない。
もともとはサンカなどと呼ばれる“辺境の人”の捨て子で、玉の輿に乗った<千里眼
奥様>の祖母・万葉(まんよう)、そしてレディース暴走族から超売れっ子少女漫画家になった母・毛毬(けまり)。数奇な運命を送った二代の女性の人生を語るのが、
「自身には、語るべき新しい物語はなにもない」と卑下する毛毬の娘・瞳子(とうこ)
である。この、「今どきの娘」瞳子の語り口は、少女コミックっぽく、なかなかで軽快だ。とどこおったり、考えさせられたりすることなく、サクサク読める。それでいてその時代時代の出来事や事件・風潮が女三代の愛憎劇や家族史と密接に絡んでいる。
読んでいて、こんなカジュアルな年代記もあるのだなと感心した。
また、万葉の最期を看取った瞳子が、祖母の漏らした謎めいた一言に囚われ、
50年以上遡る“殺人”事件を追いかけるところは、なかなか読ませる。
本書は、三代の女性の、その時代と共に生きた、生き様の物語を3回楽しめて、
さらに一本、三代通してのひとつの謎を解く興趣も味わえる、ジャンルの壁を軽々と
飛び越えた、異形の快作である。