読書記録116

悪果 (角川文庫)

悪果 (角川文庫)

’07年、「このミステリーがすごい!」国内編で第14位にランクインした、全編関西弁が飛び交う、他に例をみない警察小説。
ホステスを愛人に囲い、勤務中に飲酒やヤクザと賭け麻雀。大阪府警今里署(架空)のマル暴担当刑事・堀内信也38才は、金と女に対するモラルは低く、それらに対する執着心は人一倍強い。マルチ商法の勧誘員の妻とは家庭内離婚寸前。彼はネタ元
から得た情報からヤクザが仕切る大規模な賭場の情報を得て、慎重に内偵を続け、
ついに署の組織を動かしガサ入れに成功する。彼の狙いは当然手柄ではなく、逮捕
された客を選び、表むきは業界紙編集長・実はブラックジャーナリスト坂辺を差し向け、記事にするぞと強請らせて広告料の名目で得た金をふたりで折半するのが目的だ。
ところが、今度の相手はタダモノではなかった。坂辺は不審な轢き逃げに遭い死亡、堀内は何者かに襲われ警察手帳を奪われてしまう。ここにおいて本書はタイムリミットが定められ、一層の緊迫感を増す。彼は同じ穴の狢とも言うべき相棒の伊達刑事と
事態の収拾に関係者を洗い始めるが・・・。そこにはもうひとつの不審死と昭和46年に遡るおぞましい金の流れがあった。そして今回の賭場のガサ入れには巧緻な罠と
からくりが仕組まれていた。
私は、黒川作品は代表作といわれる『疫病神』と、北朝鮮の実態を描いた『国境』に
次いで3作目だが、いずれも、そして本書においても、卓越した取材力とリアリティー
への強いこだわりからか、読んでいてどこまでがフィクションかと疑ってしまうような
現実味に満ちている。
本書は、警察、実業界の実態を堀内という“生臭い”刑事を通して描いた、まるで実録ものと見紛う極上のエンターテインメントである。