読書記録115

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

本書は’06年太田出版から刊行された百田尚樹のデビュー作である。’09年講談社で文庫となり、そして’10年、全国の読書のプロ“カリスマ書店員”が選ぶ「2009年
最高に面白い本大賞 文庫・文芸部門第1位」の帯をつけてブレイク。夏をピークに
売れに売れた“泣ける”感動作である。
本書は、4年連続で司法試験に落ちてニート状態の佐伯健太郎26才が、
フリーライターの姉とふたりで、太平洋戦争で戦死した、実の祖父にあたる宮部久蔵のことを調べるべく、当時のことを知る生き残りの戦友たちを訪ねてインタビューする
物語である。
それらの話は驚くべきもので、零戦戦闘機乗りとして凄腕を持ちながら、同時に異常
なまでに「生」に執着する祖父の姿が語られる。戦後65年を過ぎたにもかかわらず、祖父の逸話として語られる数々の戦闘は、リアルでありディテールにこだわった、当時の男たちの魂の叫びであった。真の男らしさとは何なのか。男が女を愛するとは
何なのか。何度本を置いて涙をぬぐったことか。
間接的な読者としてこれほど感動するのだから、インタビューのその場にいて話を聞くものが魂を揺さぶられるのももっともだろう。元戦友の、20才そこそこのヤンキー
っぽい孫が自らの生き様を反省したり、ヤクザの若いモンが襟を正したり・・・。そして最後に明かされる、奇縁のめぐり合わせの後に、健太郎がいま一度司法試験に
チャレンジしようと思い、仕事と結婚の狭間で揺れ動く姉慶子が愛に生きようと決心
する。
緻密な取材力で太平洋戦争の空の絶望的な戦いを描き、しかも単なる戦記ものに
終わらず、とてもデビュー作とは思えない、読むものに“感動”と“涙”と、“勇気”すら
与える百田尚樹とは・・・いやはや凄い作家がいたものである。