読書記録114

ルームメイト (中公文庫)

ルームメイト (中公文庫)

本書は、’97年発表、’06年文庫化の作品ながら、最近になって世のミステリー好きから注目され、’10年末の時点で20万部の売り上げを数えて、本格パズラー今邑彩の代表作となった。
女子大生となり、実家の愛知県津島市から上京した萩尾春海。彼女は京都から来た西村麗子とマンションをルームシェアするという共同生活をして約4ヶ月。
実は麗子は多重人格者だった。主人格は、同名の娘を持つ青柳麻美という42才の女。そのほかにも松下貴弘という横浜のサラリーマンの内縁の妻、平田由紀。銀座のホステス、マリ。そして6才の少女、サミー。実に5重の人格を持っていた。初めは失踪したルームメイト麗子を探すため大学の上級生、工藤謙介と共に行動を起こす春海
だったが、彼女が殺されるにいたって、フリーのライターで謙介の従兄武原英治も独自に調査・取材を始める。どうやら先日新宿のホテルで起こった池袋の英会話スクール経営者、ロバート・パーカー殺人事件と関連があるらしい。やがて謎の真相を掴んだ
らしい武原も殺される。
ストーリーは、いくつもの人格をもった麻美を軸に、春海と謙介が連続殺人の真犯人の謎を追う展開となるのだが、武原が、そして彼が工藤に託した事件の真相は思いも
寄らぬものだった。
挿入される<モノローグ>が、折原一ばりの叙述ミステリーの体裁を持ち、大きな伏線となっているが、今邑彩が仕掛けた謎・罠は、ミステリー初心者の読者は、コロっと
騙されるんだろうけれども、実は第三部のはじまりくらいの段階で私には分かって
しまった。これだけの多重人格者が絡む物語というのは、本格ミステリーとしては
“禁じ手”(?)、やりすぎで、かえって興をそぐのではないか。そんな要らない心配を
してしまう。