読書記録113

化身 (創元推理文庫)

化身 (創元推理文庫)

愛川晶(あきら)のデビュー作である本書は、ミステリーの老舗出版社、東京創元社が主催する、本格ミステリーの泰斗の名を冠した「鮎川哲也賞」’94年、第5回の受賞作である。
1年前に、残った唯一の肉親である父親を交通事故で亡くした、天涯孤独の人見操。彼女は都内のアパートでひとり暮らしをする聖都大学文学部の1年生である。夏休みに入ったばかりの、サークルの合宿明けのある日、差出人不明の淡いピンク色の封書が届いていた。そこには、操の古い記憶を刺激する保育園と一枚の絵の写真が。それが彼女を襲う恐怖と驚愕の日々の始まりであった。彼女は親友の星野秋子の勧めで同じサークルの先輩・理学部の3年生、巨漢の坂崎英雄と共に調べてゆく。
次々に送られてくる謎の封書に、自らの出生の秘密を、同封の写真を手掛かりとして戸籍と記憶をたよりに調べてゆくと、驚くべき事実が明らかになってくる。しかしひとつの謎が判明すると、また新たな謎が矢継ぎ早に発生。全部で4章ある物語のその最後の章の途中までまったく真相に到達しない。
本書の読みどころは、「記憶」と「戸籍」にまつわるトリックと19年前くだんの保育園で発生した「密室状態での乳児誘拐事件」のトリックの落としどころと、“どんでん返し”
ともいえる真犯人の企みである。とにかく、たたみかけるサスペンスの連続に、
まだ19才といううら若い操の心は引き裂かれんばかりだ。
本書は、フィクションとはいえ、読者に、これほどのことが実際起こりそうだと真剣に
思わせてしまう、臨場感に満ちたミステリーの力作である。