読書記録5

愛おしい骨 (創元推理文庫)

愛おしい骨 (創元推理文庫)

キャロル・オコンネル女史が、クールなニューヨーク市警女性刑事キャシー・マロリーをヒロインとするシリーズから離れて、『クリスマスに少女は還る』(’98年)以来10年
ぶりに発表したノン・シリーズ作品。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編でなんと、「週刊文春ミステリー
ベスト10」海外部門で堂々第4位に名を連ねている。また、講談社の文庫情報誌
『IN★POCKET』の’10年11月号「2010年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で
「総合」第14位、「翻訳家&評論家が選んだ」部門第11位にランクインしている。
合衆国陸軍犯罪捜査部下級准将オーレン・ホッブズ37才は、家政婦に請われて、
職を辞し、20年ぶりに故郷カリフォルニア州北西部の広大な森に隣接した小さな町
コヴェントリーに帰還する。そこでは20年前に事件があった。当時17才のオーレンと
15才の弟ジョシュアが森へ行き、そのまま弟は行方不明に。そして今、ホッブス家の玄関先に毎夜、ジョシュアのものと思しき骨がひとつずつ置かれ続けていた。それに混ざって別人の骨が発見されるに及んで、オーレンは保安官の要請で“20年前の謎”
の捜査を始める。
彼は、まるで時間が止まったような、俗世と隔絶されたこのスモール・タウンのひとびとを訪れるのだが、みんなどこかしら不可思議であった。
母が交通事故で亡くなった、オーレン3才の時以来ホッブス家に居座った正体不明の家政婦ハンナ。
偏執的なまでに家を昔のままに保ち、かつての愛犬を剥製にして、夜驚症で不可解な行動をとる元判事の父。
幼女の頃から寄宿学校に入れられ、母親に捨てられたと思っている鳥類学者。
アルコール中毒で自宅の塔に半ば軟禁されているその母親。
すべてを奪われ障害者として大邸宅に隠棲する、元天才児にして元警官の大学客員
講師。
文壇で芽が出ず、ゴシップ・ライターと成り下がった小説家。
森のコテージで降霊会を催すホテルの女主人。
誰も寄り付かない図書館で司書を勤める巨漢の婦人。
無能呼ばわりされる保安官。
個性的な中年女性の州捜査官。
果たしてジョシュアはどうしてしまったのか。誰が何のために彼の骨をホッブス家の
玄関先に置き続けたのか。一緒に置かれたジョシュアとは別人の骨は。一体20年前に何があったのか。そして悲劇的な結末。
本書はこういった謎解きの興趣もさることながら、ミステリーと呼ぶのはいささか雰囲気の異なる、神秘的なものさえ漂う、一種の閉鎖された小さな町のひとびとの深い痛みを余すことなく描いた物語である。