読書記録4

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

ニューヨーク市警女性刑事キャシー・マロリーをヒロインとするシリーズを持つ
キャロル・オコンネル女史が’98年に発表したノン・シリーズ大作。
’99年、「このミステリーがすごい!」海外編で第6位にランクインしている。
クリスマスまであとわずかと迫ったニューヨーク州の片田舎でふたりの少女が姿を
消した。ひとりは州副知事の娘グウェンで、もうひとりはその親友の問題児サディー。
さっそく州警察、FBI、法心理学者たちによって特別捜査班が組織され、地元警察からはルージュが臨時州警察捜査官として抜擢される。実は、彼は15年前に似たような状況で誘拐されて死体で発見された少女の、心に傷を負った一卵性双生児の兄
だった。彼は自らのトラウマとなった記憶を紐解くと同時に捜査にのめりこむ。
この長い物語は、映画のカットバックのような手法で、外部の警察捜査の動きと、内部の監禁されたグウェンとサディーの勇気と友情に溢れた、犯人への果敢な反撃と脱出行動が交互に描かれる。そしてそれぞれがクリスマスというデッドラインに向けて緊張を高め、意外な真犯人の登場という1点で交叉し、一応の決着を迎える。
個性的・独創的な登場人物たちの強烈なキャラクター造形。乾いてクールな語り口でありながら描写の隙間から零れ落ちる感傷。一種独特な幻想感。そしてどんでん返しともいえる終章とエピローグ。読者はここにおいて邦題が『帰る』ではなく、『還る』
であることの真の意味を知るのだ。
本書は、私にとって過去にあまり読んだことのない、超絶技巧のサスペンスであると
同時に、読後になんとも言えない余韻を残す、愛と救済と贖罪の、奇蹟のような物語である。