読書記録6

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

北アイルランド生まれのスチュアート・ネビルが’09年に発表した長編デビュー作。
ジェイムズ・エルロイやジョン・コナリーから賛辞が寄せられ、「ロサンゼルス・タイムズ
・ミステリー/スリラー・ブックプライズ」最優秀賞を受賞したほか、多くのミステリー賞の最優秀新人賞にノミネートされている。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で同点第15位。
また、講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』の’10年11月号「2010年文庫翻訳
ミステリー・ベスト10」で、「翻訳家&評論家が選んだ」部門第13位にランクイン。
アイルランドリパブリカン(共和派)のテロリスト、フィーガンが、自分が紛争中に
殺した12人の亡霊に取り憑かれ、せがまれ、その苦しみから逃れるため、昔の仲間や指導者、その手先となって働く者たちを次々と殺してゆくという話である。
本書を読み解くには、’98年に和平合意に至るまで激しく対立した、北アイルランドの「リパブリカン」と「ロイヤリスト」の関係を頭に入れておかなければならない。英国政府からの分離独立・南北アイルランド統一を目指すカトリック系の前者と、それを阻もうとするプロテスタント系の後者。
この構造を前提にすると、本書がただの「オカルトっぽい、頭のおかしい元兵士の
クレイジーな無差別殺人譚」でないことが分かる。
私が思うに本書は、複雑な対立構造と脆い和平状態に危機感を抱く、現在は自らの
社会的・政治的・経済的利権に保身する<悪者たち>。実は紛争当時フィーガンの裏で糸を引き自分たちを殺したその男たちに“復讐”する物語である。ガンファイトや殺人シーンはそれこそ魂がこもっていて妙にリアルだし、本書の読みどころだが、果たして“仕事”をやり終えた時、フィーガンは、心を寄せる女性とその娘と共に、心の平安を
取り戻すことができるのか、という興味が頭を離れなかった。