読書記録16

放火 (コクウィットラム連邦警察署ファイル) (集英社文庫)

放火 (コクウィットラム連邦警察署ファイル) (集英社文庫)

本邦初紹介の、カナダ生まれでアメリカ在住の作家サンドラ・ラタン女史のデビュー
2作目のミステリー。
舞台はカナダの、メトロ・バンクーバーを構成するコクウィットラム市。この夏に3つの
重大事件が連続して起こっていた。連続放火事件、連続少女誘拐事件。連続レイプ
事件がそれである。担当するのは、RCMP(カナダ連邦警察)コクウィットラム署の
デイリー巡査部長配下の、それぞれアシュリン、テイン、クレイグの各刑事である。
また放火事件がおこった。そして焼け跡から誘拐された少女の遺体が発見され、
さらに時を同じくして消防士の妻がレイプされた。それら3つの事件の関連性が
疑われ、やがて3人の刑事は1年ぶりに協力し合って捜査に当たることになる。しかし犯行はおさまらず、少女がまた誘拐され、放火もおこり、レイプ事件では殺人へと
エスカレートし、あろうことかクレイグ刑事の相棒のロリー刑事までレイプ犯の被害にあってしまう。
本書は、それぞれの犯行こそ大掛かりで複雑だが、手に汗握るスリルとか、身震い
するようなサスペンス、度肝を抜くどんでん返しなどはない。むしろ、「土曜日」に
はじまって翌週の「水曜日」までの12日間の刑事たちや周りの捜査関係者・上司を
含めた地道な捜査活動が、各章の中でも、映画のカットバックのような手法で短い
間隔で場面を変えながらテンポよく描かれてゆく。かなり登場人物が多く、地名も多く、メインとなる3つの事件のほかにもさらなる犯罪が重層的に絡み合う。そして全569
ページのうち492ページにいたっても新たな誘拐事件の報せが・・・。最後の「火曜日」と「水曜日」に疲労困憊の刑事たちの手によってようやく真犯人たちとの対決シーンがある。
本書は、刑事たちの生の声や心情といった人間ドラマを、あくまでリアルな捜査活動を通して味わうたぐいの警察小説である。