読書記録15

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

最後の音楽―リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

’87年に『紐と十字架』で始まった、現代英国ミステリー界を代表するイアン・ランキンによるスコットランドエジンバラ警察の<リーバス警部>シリーズの、ノンフィクションを加えると第18作・完結編。40才の部長刑事として初登場してから20年、’07年
発表の本書でリーバスは現役引退を迎える。本書は、リーバスの警部としての最後の10日間をドキュメンタリー・タッチで克明に描いている。
’06年11月15日の夜、ロシアの反体制派の詩人がエジンバラ城脇のひとけのない路上で「ぼこぼこに殴られて」撲殺された。ひとつ間違えれば国際問題にも
なりかねない。翌週末に定年退職をひかえたリーバスは相棒のシボーン・クラーク部長刑事と共に捜査に当たる。事件の調べが進むにつれ、ロシアから来た財界の大物、
スコットランド議会の有力議員、大手銀行の幹部職員、例によって上からの権威に
弱いリーバスの上司たちが敵として立ちはだかる。そして宿敵・エジンバラを仕切る
ギャングの黒幕カファティの影が・・・。事件は殺された詩人の知り合いの録音技師が自宅もろとも火災で焼け死ぬに至って、リーバスは一層真相解明に乗り出すのだったが、いつものように独断専行型のリーバスに対して、退職まで残り僅かだというのに
警察本部長から停職命令が出されてしまう。
この<シリーズ>のファンにとって、リーバスのあざやかな“最後の引き際”とカファティとの“決着”に興味津津で読み進んでゆくのだが、世の実力者たちに臆することなく
立ち向かうリーバス、彼の推理と行動の果てに解決を見る意外な盲点。
そしてエピローグで明かされる、ツイストの効いたもうひとつの事件の真相と、これは
これで読み応えのある内容である。が、リーバス警部というキャラクターは、これで
終決してしまうのはまったく惜しい。いつの日にかまた彼に会えることを期待して・・・。