読書記録14

湖は餓えて煙る (ハヤカワ・ミステリ1839)

湖は餓えて煙る (ハヤカワ・ミステリ1839)

『卵をめぐる祖父の戦争』に続く、「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」新装第二弾。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で第19位にランクイン。≪ウォール
・ストリート・ジャーナル≫が9.11事件報道により’02年にピュリッツァー賞を受賞
した際の一員で、現在は同紙のシカゴ支局長をつとめるブライアン・グルーリーの
小説デビュー作である。惜しくも受賞を逃したが、アメリカにおけるミステリーの
最高峰、’10年度「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」のベスト・ファースト・ノヴェル(最優秀新人賞)にもノミネートされた。
1998年2月。ところはミシガン州北部の田舎町スタヴェイション・レイク。‘おれ’こと
ガスは、少年時代にアイスホッケーの州大会決勝でおかした致命的なミス、そして
成人してからの大都市デトロイトで≪デトロイト・タイムズ≫の記者として勇み足を
踏んで解雇・現在も係争中、という二重のトラウマを抱えている。34才の現在は地元ローカル紙≪パイロット≫の編集長代理をつとめ、アイスホッケーも趣味で続けて
いる。
そんなある晩、凍てついた湖のほとりにスノーモビルの残骸が打ちあげられた。
それは、かつて‘おれ’も師事した、少年アイスホッケー・チームを率いた伝説の
コーチ、ブラックバーンが10年前に事故死した時に乗っていたものだった。にわかに
浮上する殺人の疑い。‘おれ’と、ただひとりの部下・赤毛の女性記者ジョーニーは
早速取材を始めるのだが、それは世にもおぞましい、町の“暗部”を暴くことでも
あった。
あくまでも事実の追求とそれを記事にすることにこだわる‘おれ’の“新聞記者”魂。
間奏曲のように回想される、少年時代にひたむきに打ち込んだ“スポーツ”。そして
ほろ苦い“青春小説”のテイスト。いつしか‘おれ’に感情移入して、この長い、
読み応えたっぷりの重層的な物語を、特に後半に至って思わずの急展開につい
一気読みしてしまう。