読書記録13

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

これまで油絵で独特の表紙を描いてきた勝呂忠が’10年3月15日に逝去されたのに伴い、伝統の「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」が新カバー、大きな活字でリニューアル
された。本書はその第1弾で、全米大絶賛という触れ込みの歴史エンターテインメントである。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で第3位に、「週刊文春ミステリーベスト
10」海外部門で第10位にランクイン。
時は第二次大戦下の1942年1月、ドイツ軍によって包囲されたレニングラードでは人々は窮乏と飢餓の極地にあった。当時17才だったレフは、夜間外出禁止令違反と略奪罪で逮捕される。
即死刑のピンチにあった彼は、獄中で一緒になった脱走兵のコーリャと共に、
秘密警察の大佐から、その命と引き換えに、娘の結婚式のウェディングケーキの材料として卵1ダースを5日以内に持ってこいという、人を喰ったような、笑うに笑えない
極秘命令を受ける。かくしてふたりの、卵を求めての一大冒険が始まる。
「ヘイマーケットの人食い夫婦がすりつぶした人肉でソーセージを売っていた。住んでいたアパートが爆撃で跡形もなく崩壊した。犬が爆弾になっていた。凍りついた兵士の死体が立て看板になっていた。顔半分を失ったパルチザンが悲しい眼を殺人者に
向けて、雪の上で体をゆらゆら揺らしていた。」極寒の、しかも敵軍に包囲された
ロシアで、ふたりは困難を極めるが、そんな中にあっても下ネタと文学談義と恋愛指南といったふたりの掛け合いは限りなく明るい。
著者の祖父であるロシア系ユダヤ人移民レフの懐古談の体裁で綴られる本書は、
臨場感に溢れており、レフとコーリャの笑いとペーソスに満ちた友情と冒険を物語の
メインに据えながら、戦争の悲惨さと愚かさを痛烈に風刺し謳った傑作である。