読書記録12

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

機械探偵クリク・ロボット〔ハヤカワ・ミステリ1837〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

フランスのユーモア作家ピエール・ルイ・アドリアン・シャルル・アンリ・カミによる、
ロボットに事件を「探偵」させるという趣向の、実にユニークなふたつの中編からなっている。
’10年3月15日に逝去した勝呂忠が描く独特な油絵の表紙による装丁の、最後の「ハヤカワ・ポケット・ミステリ」NO.1837である。
’10年、「このミステリーがすごい!」海外編で第13位に、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門で第15位にランクインしている。
計算機としての頭脳を発揮して、正確無比な方程式をたて、代数学的に謎を解き、
その口から暗号文を吐いて回答する。もちろん鉄の体は銃弾をも飲み込み、人の力を超えた運動機能で犯人を捕まえるクリク・ロボット。彼は発明者である古代ギリシアアルキメデスの直系子孫であるジュール・アルキメデス博士に操作され、今日も
難事件に挑む。
「五つの館の謎」(1945年):五つの居館からなる邸宅の庭で、ある男が額にナイフが突き刺さり、殺される。折りしもそこでは奇妙な連続盗難事件も起こっていた。そして
第2の殺人が・・・。刑事が容疑者として一号館の借主である小説家を逮捕せんとする時、クリク・ロボットが颯爽と登場。類稀な能力を生かして真相を喝破するという謎解きミステリー。
パンテオンの誘拐事件」(1947年):パリの偉人たちを祀る霊廟パンテオンから4つの偉人の棺が“誘拐”される。身代金はしめて5千万フラン。犯人逮捕のため、クリク
・ロボットは首相から出動を要請される。
パンテオンとパリ中に広大に張り巡らされた地下墓地・カタコンベを舞台にクリク
・ロボットとアルキメデス博士が活躍する冒険ミステリー。
決して上手とは言えない挿絵、高野優の苦心の翻訳、クリク・ロボットのユニークな
キャラクター、そして何よりも怪しげな登場人物たちとハチャメチャな展開ながら、
終わってみればきちんと筋が通って収まるところにきちんと収まる、まことに愉快、
痛快な、<過去からの贈り物>のような物語である。
そう、まるで少年のころ胸躍らせて読んだ、挿絵入りジュブナイル版の謎解き
&冒険ミステリーの感動が甦るようではないか。