読書記録11

いとけなく愛らしき者たちよ (ヴィレッジブックス)

いとけなく愛らしき者たちよ (ヴィレッジブックス)

’04年(訳出も同年)のデビュー作『報復』で世のサスペンス・ミステリー・ファンを
震撼させ魅了した、検察官、法執行局・地域法務アドバイザーの経歴を持つジリアン
・ホフマンの’10年発表の最新作である。
ボビー・ディーズはフロリダ法執行局(FDLE)のマイアミの児童被害犯罪班の
主任特別捜査官。彼は優秀警察官として表彰され、仲間のあいだで警察犬シェパードの愛称シェップと呼ばれるほどの辣腕である。彼は、感謝祭も近い秋に突然行方不明となったレイニーという13才の少女の捜索に当たることになるが、それは世にも
おぞましい一連の連続少女誘拐殺人事件の一部だった。
何者かが、インターネットという新しい狩猟場で10代の少女たちを狙っていたのだ。
やがてボビーを挑発するかのように、少女惨殺の姿を描いた油絵が3度も少女の家出問題を取材するTVレポーターのもとに送りつけられる。さらにその絵そのままの死体が次々に発見されるに及んで、世間では“ピカソ殺人事件”と呼ばれるようになる。
ストーリーは、自らの娘も1年前に失踪したという深い傷を心に負ったボビーと
“見えない敵ピカソ”との闘いを、映画のカットバックのような短い章立てでスピーディかつサスペンスフルに進んでゆく。そして、カーチェイスと古いホテルの火災シーン
という危機一髪のクライマックスへとなだれ込む。
『報復』でそのストーリー・テラーとしての手腕を存分に発揮したホフマン。
続く『報復ふたたび』『心神喪失』ではいまひとつの感があったが、本書では『報復』の原点に帰ったかのような正統的な本格サイコ・スリラーを味わうことができる。