読書記録19 

3652―伊坂幸太郎エッセイ集

3652―伊坂幸太郎エッセイ集

’00年12月20日、「新潮ミステリー倶楽部賞」受賞作『オーデュボンの祈り』で
デビューして10年、その同じ日付(奥付)で初エッセイ集が発行された。
10年間、独特の“伊坂ワールド”で多くのファンを惹きつけてきた伊坂幸太郎の10年に渡る折々の生の思いを充分に堪能させてもらった。
「特別な経歴や特技もありません」「むしろ出不精なほう」「もともと、こぢんまりとした
生活が好きで暗い性格」「エッセイが得意ではありません」などと本人は書いているが、なかなかどうして、エッセイでも私たちファンを魅了する、どことなく浮遊感があり、人を喰ったような“伊坂テイスト”は健在だ。
彼自身が折に触れて「恰好いい」と述べる本や映画に音楽、「怯え」ながらも、ちゃんとオチがついている毎年年初の『干支エッセイ』、いままで明かされなかった小説の
イデアや装丁を含めてその本ができるまでの逸話、なによりも自分は「ミステリー
作家である」というスタンスで、読者を大切に思い、今自分にできる最高のものを届けようという意思と、読者の反応を常に気にしている様子にプロの作家魂を見せられた気がする。
また、全エッセイに付けられた、現在の彼が思い出しながら綴る「脚注」も臨場感が
あってナイスである。
本書は「作家」伊坂幸太郎を育んできた10年間の歴史を垣間見ることの出来る、
ファン必読の貴重な一冊である。
一編一編はそれほど長くないので、時間をかけて少しずつ読むのも良し、一気読み
するのも良し、ただし拾い読みをするのではなく、初めから年の順に読み進まれることをおススメする。