読書記録20

田村はまだか (光文社文庫)

田村はまだか (光文社文庫)

今最も注目されている、北海道小樽市出身で札幌在住の女性作家、朝倉かすみ
よる’09年、「第30回吉川英治文学新人賞」を受賞した全6話からなる連作短編集。文庫版には連作の番外編とも言うべき「おまえ、井上鏡子だろう」がボーナス・トラック
として特別収録されている。
3月4週の金曜日深夜、札幌ススキノ、小さなスナック・バー「チャオ!」の店内。
小学校のクラス会の3次会。5人の40才になる男女が、遠方から遅れてやってくる
田村久志を待っている。「田村はまだか」とつぶやきながら。
マスターの花輪春彦も加えて6人の胸のうちに、それぞれ入れ替わるように呼称が
形容詞から固有名詞に変わって、なかなか来ない田村を待つ間に、過ぎ去った
“痛いところ”が浮かぶ。それらは仕事であったり、不倫であったり、離婚であったり、
ほのかな恋心であったりする。40年生きていれば誰もが経験する(かもしれない)し、胸に抱く(かもしれない)類のエピソードである。人生の機微というにはおおげさだが、40才という年齢に達した彼らの、彼らなりの心象風景が、あくまでさらりと描かれて
ゆく。そしていよいよ田村である・・・。
本書からは、「こころが波打つような」「怒濤の」感動をすることはできなかったが、
私にとっては同世代に当たる著者・朝倉かすみがこの物語に託した、「いろいろあったが、『明日』がある」というような応援歌的メッセージを受け取ったような気がした。