読書記録39

バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)

バッキンガムの光芒 (ファージング?) (創元推理文庫)

ファージング3部作の第3弾完結編。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門で3部作まとめて第2位、
このミステリーがすごい!」海外編で第14位。また、講談社の文庫情報誌
『IN★POCKET』の’10年11月号「2010年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で
「総合」第3位、「作家が選んだ」部門同点第3位、「翻訳家&評論家が選んだ」部門
同点第4位にランクインしている。
時は1960年、復活祭(イースター)を間近にひかえた4月。ソ連が消滅し、アメリカが日本に破れ、枢軸国側が大戦に勝利していた。本書の語り手‘わたし’は前作
『暗殺のハムレット』で殉職したロイストン巡査部長の遺児エルヴィラ。18才の
‘わたし’は、カーマイケルの後見を得て社交界デビューとオックスフォード大学進学を目前にしていた。そんなある日、親友ベッツィの両親の友人の息子アラン准男爵
誘われて、ファシストたちのパレードを見物に行く。ある男の飛び入り演説を機に
パレードは暴動と化し、暴徒の群れのなか、連れとはぐれた‘わたし’は警察に逮捕
されてしまう。
ノーマンビー首相の肝いりで創設された、テロリストの検挙を目的とした「監視隊
(ザ・ウォッチ)」の隊長となったカーマイケルは、一方で「影の監視隊(インナー
・ウォッチ)」を組織して多くのユダヤ人たちを密かに匿いアイルランドへ脱出させて
いた。
本書は、カーマイケルの“裏の顔”を暴かんとして‘わたし’を再度逮捕・尋問し、
ひしひしと迫る「ファッショ化した」体制側とカーマイケルたちの必死の攻防の物語
である。最後に意表をつく人物を頼り、そのパートナーのアドバイスを受け、乾坤一擲の勝負に出る‘わたし’。まさに3部作の掉尾を飾るにふさわしいラストが待ち受けて
いた。
英国の少額貨幣単位をそれぞれ原題としたこの3部作は、SFとミステリーの手法を
使って、全体主義の恐怖を浮き彫りにしており、現在の世界を覆う苦悩にも通じた、
オールタイム・ベスト級・読み応え充分の傑作である。