読書記録38

暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)

暗殺のハムレット (ファージング?) (創元推理文庫)

ファージング3部作の第2弾。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門で3部作まとめて第2位。講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』の’10年11月号「2010年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で「総合」第13位、「作家が選んだ」部門第7位にランクインしている。
前作『英雄たちの朝』から数週間後。語り手は子爵家に生まれた6人姉妹の3女で、
旧弊な家族から家出してラークという芸名の舞台女優になった‘わたし’こと
ヴァイオラ・ラーキン。彼女が演出家から男女の配役を逆転させた芝居「ハムレット」の主役をオファーされるところから幕を開ける。そんな‘わたし’に、久々に再会した
ひとつ年下の共産主義者の妹がとんでもない難題を押し付ける。一方カーマイケル
警部補は、ロンドン郊外のベテラン女優宅で発生した爆弾爆発事件の捜査に
ロイストン巡査部長を従えてあたる。
前作同様、‘わたし’の一人称の章とカーマイケルの三人称の章が交互に展開するのだが、ふたりは“ヒトラーと英国首相暗殺”という恐るべき企みにおいて、実行する側と阻止する側として、ゼロアワーに向けて緊迫感を盛り上げながら密接に交錯する。
本書の読みどころは、ひとつは、カーマイケルの警察捜査小説としての面白さ。
もうひとつは、舞台女優としてのプロ根性を持つ‘わたし’が、幼いころからの姉妹の絆を大切に思いながらも、アイルランドの爆弾製造専門家デヴリンに惹かれて同棲して、右に左に葛藤し揺れながらも、やがて「ファッショ化する英国」「ユダヤ人差別」に反発するという大義のもと、暗殺実行を決意するまでのプロセスだろう。
本書は、それらのプロセスを主軸に据えながら、演劇ミステリーとしての薀蓄、ゲイであるカーマイケルの権力に対する対応と苦悩を織り交ぜて紡がれており、
『英雄たちの朝』に続けて読むとその結びつきと一連の流れに対する興味は
尽きない。
さあ、つぎはいよいよこの一大物語絵巻の完結編『バッキンガムの光芒』である。