読書記録45

冷血の彼方 (創元推理文庫)

冷血の彼方 (創元推理文庫)

アメリカで弁護士、政府改革のコンサルタントという顔を持ち、映画やTV、舞台の脚本も手がけてきた、マイケル・ジェネリンが、’08年に発表した、自身も3年居住した、
本書のヒロインのヤナ(ヤンカ)・マティノヴァが刑事警察隊の警部として籍を置く
スロヴァキアを冒頭の舞台とした、小説デビュー作。
凍てつく冬の夜、首都ブラティスラヴァでヴァンに乗車していた男性1人と女性6人
全員が死亡する交通事故が発生。現場に駆けつけたヤナは死者の中に顔見知りの
売春婦を見つける。ポン引きと思われる運転手の男のアパートを捜索すると、内容が暗号化された帳簿があった。ヴァンで死亡した者たちの大半がウクライナ人である
ことや、時を経ずしてウクライナ出身の老女の他殺死体がドナウ河畔で発見された
ことから、ヤナは謎を解くため現地へ強硬出張する。そこで‘コバ’と呼ばれる伝説的な殺し屋の存在を知るのだった。
ウクライナから、フランスのストラスブール、そしてニースへと舞台を広げ、ヤナの行く先々で、殺人事件が頻発する。しかもストーリーの終盤、あと30ページ少々という
ところまでそれは続く。果たして帳簿の謎は、すべてが‘コバ’の仕業なのか。三人称多視点の短い章立てで描かれる物語は、ハイテンポに、複数の国で展開される
広域犯罪を描いてゆく。
そして、もうひとつ忘れてはならないのが、メインのストーリーに挿まれるヤナの、
現在も糸を引く、かつて共産主義体制化で抑圧された耐え難い家族の悲劇である。
夫を、娘を、一時期は職をも失ったヤナの悲嘆が目前の事件にも影をさす。同時に
それは彼女と同行して捜査の協力をするロシア人の若き警官レヴィティンにもいえる。
本書は、ミステリーとしては、読むものを混乱させてしまうほどあまりにも事件や死人が多く、結末で謎は一応解明されるが、いささか消化不良の感は否めない。
むしろ、あえて東欧の国を選んで、犯罪小説の体裁をとりつつ、重い過去を背負った熟年女性警部ヤナをフィーチャーした作品という印象が強い。