読書記録46

ノンストップ! (文春文庫)

ノンストップ! (文春文庫)

英国の新鋭ミステリー作家サイモン・カーニックの第5作。それにしても、つけも
つけたりこの邦題『ノンストップ!』。まさにジェットコースターの勢いのサスペンス劇
である。
’10年、「週刊文春ミステリーベスト10」海外部門で第8位、「このミステリーが
すごい!」海外編で同点第15位。講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』の
’10年11月号「2010年文庫翻訳ミステリー・ベスト10」で「総合」第11位、「翻訳家&評論家が選んだ」部門第8位にランクインしている。
‘ぼく’ことトーマス(通称トム)・デビット・メロンは35才。<イージー・ソフトウェア
・サービス>でセールス・マネージャーをつとめ、妻とふたりの子供を持つ普通の男。
5月後半の曇った土曜日の午後3時1分。疎遠になっていた幼なじみの弁護士
ジャックからの、何者かに襲われて断末魔の、しかも‘ぼく’の住所を相手に告げる
電話から‘ぼく’の平穏な生活は一気に崩壊する。
子供たちを義母に預け、何度かけても携帯が留守電になる妻の勤め先の大学の
研究室に向かうが、そこでナイフを持った男に襲われる。身に覚えのない殺人の容疑で逮捕される。ここまでわずかに50ページ。あとは一気呵成だ。釈放されると今度は謎の集団に拉致される。覆面捜査官と名乗る男に救われ、別荘に赴き妻と出会ったのもつかの間、子供たちが誘拐され、またまた襲撃を受ける。
各章の場面転換のたびに、その最後の1行が、衝撃的な疑問と疑惑を噴出させ、読者に息つく暇を与えなかったり、‘ぼく’、敏腕警部補、変態殺し屋の3つの視点が
あったりというカーニックの演出の手腕に、ページを捲る手が止まらない。
それだけではなく、ストーリーの合間に見せる、‘ぼく’の、疑いながらも妻を想う気持ちと子供たちへの愛情や、心に傷を負った警部補が法を犯す心情などの情念が
垣間見えるところも読みどころのひとつだ。
そして、24時間の逃亡と追走と脅迫の果てに訪れる“どんでん返し”と、いくつもの
殺人が絡んだおぞましい真相。
本書は、ただの『ノンストップ!』逃走劇だけではない、英国で40万部のヒットとなったのもうなずける、重層的で実に読み応えのあるミステリーである。