読書記録47

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

’10年、「このミステリーがすごい!」海外編、「週刊文春ミステリーベスト10」
海外部門で共に第7位となった、英国の女流作家サラ・ウォーターズの長編第5作。
2作目の『半身』(’99年)、3作目の『荊の城』(’02年)は、邦訳された’03年と
’04年に「このミス!」の第1位を連覇している。
また、講談社の文庫情報誌『IN★POCKET』の’10年11月号「2010年文庫翻訳
ミステリー・ベスト10」で「総合」第20位、「読者が選んだ」部門第17位、「翻訳家
&評論家が選んだ」部門同点第17位にランクインしている。
さらに、『荊の城』、第4作の『夜愁』、本書と、3作続けて受賞には至らなかったが、
英国および英連邦文学の最高峰「ブッカー賞」にノミネートされた。
時は第二次大戦が終わって間もない頃、イングランド中部のウォリックシャー地方で
200年余の伝統を守ってきた、エアーズ家が所有するハンドレッズ領主館。10才の子どもの頃にその隆盛に憧れを抱いていた‘私’こと男やもめの医師ファラデーは、
自宅兼診療所のあるリドコート村から8キロの距離にあるその館に30年ぶりに主治医の代役でメイドの往診に訪れる。館は、見る影もなく落ちぶれて、先代の未亡人と
その娘キャロラインと息子ロデリックの3人だけが、通いの家政婦とたったひとりの
住み込みのメイドと暮らし、いまや凋落の一途をたどっていた。
ストーリーは、ひんぱんに出入りするようになった‘私’の視点から、一年間の館で次々と起こる、住人を恐怖と狂気に陥れる怪事件と怪現象の数々が、‘私’のキャロラインへの熱烈な恋心と併せて描かれる。そしてついに二重・三重の悲劇が・・・。
私は、はじめはダフネ・デュ・モーリアの『レベッカ』を連想したが、すぐにホラー映画
悪魔の棲む家』を思い浮かべた。本書をゴシック・ロマンと評するむきもあるが、私は
ホラーを軸とした「時代の進歩に取り残された誇り高き自滅」の物語であり、「過去に
固執した名家の滅びの美学」の結晶のように思われた。