読書記録62

wakaba-mark2011-04-25

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈上〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)

強盗こそ、われらが宿命(さだめ)〈下〉 (ヴィレッジブックス)

’95年、『人質』(訳出は’97年)でデビュー。ディーン・クーンツに絶賛されたアメリ
ミステリー界の新鋭チャック・ホーガン。本書は’04年発表の第3作で、ハードボイルドの始祖の名を冠した「ハメット賞」(国際推理作家協会北アメリ支部主催)を’05年度に受賞し、ベン・アフレック監督・脚本・主演で『ザ・タウン』というタイトルで映画にも
なり、’10年9月に全米公開された(日本での公開は’11年2月)。
全米一銀行強盗の発生率の高い街に生まれ育ち、当然の如く強盗稼業に精を出してきたダグたち4人の仲間。1996年4月16日の早朝、ボストンの中心地ケンモア
スクウェアのオフィス・ビルにあるベイ銀行を襲う。そして、その後になんと、犯人
であるダグが被害者である支店長クレアに恋してしまうのだった。
このグループのリーダー・ダグの人物造形が実にいい。6才の時に母がいなくなり、
16才の時に父がやはり強盗で2度目の服役。自身もアイスホッケー選手として有名チームにドラフト指名されるも傷害事件を起こして刑務所に。
そこで酒を断ってあくまでもストイックに生きている。盗んだ金を遣わずにこっそり土に埋めたり、心惹かれるクレアにコインランドリーで偶然を装って近づいたりするくだりは、彼のキャラクターがよく現れている。そう、本書はスリルに満ちた犯罪小説であると同時に、ひりつくような純愛小説でもあるのだ。
クレアとの愛に生きて、足を洗おうと最後の大仕事にのぞむダグ。
しかしボストン銀行強盗特別捜査班に属するFBI捜査官フローリーもまたクレアに
思いを寄せ、着実にダグたちに対する包囲網を狭めてゆく。
そして大リーグ<ボストン・レッドソックス>の本拠地球場「フェンウェイ・パーク」で命を
懸けた最後の闘いのクライマックスを迎える。
チャック・ホーガンは本書で、90年代半ばの、再開発の波と新興の住民とで変貌を
遂げようとする寸前の、まだ昔ながらの伝統と矜持を残す“由緒正しい卑しき街”
チャールズタウンを敢えて舞台に据えて、旧タイプの銀行強盗が生き生きと活動し、対する泥臭い捜査方法の能力が発揮できる、最後の時代の若者たちを瑞々しくも
臨場感たっぷりに活写している。