読書記録63

流刑の街 (ヴィレッジブックス)

流刑の街 (ヴィレッジブックス)

本書は、映画化もされた第3作『強盗こそ、われらが宿命(さだめ)』(’04年、訳出は
’07年)で’05年度「ハメット賞」を受賞したチャック・ホーガンが’10年に上梓した
第6作である。
イラク戦争から退役して9ヶ月になるメイヴンに現実社会は厳しかった。
社会に馴染めず、鬱屈した心身を抱えながら駐車場の夜間警備員の仕事を見つけた彼は、冷え込むボストンの11月の土曜の夜、強盗に襲われるが、反撃して相手を
半殺しにしかかったところを、客の男女に止められる。女の方がハイスクール時代の
3年年長でメイヴンにとって憧れの存在だったことから、後日、あるグループに
リクルートされる。
「麻薬強盗団」。その男、ロイスが率いるグループは、何十万ドルもの上層部クラスの麻薬取引の現場を襲い、買い手と売り手の両方を痛めつけ、現金だけを奪って麻薬を捨てていた。戦場を喚起させる仲間との連帯と多額の報酬、そしてロイスの情婦
であるかつての憧れの女との逢瀬がメイヴンを酔わせる。
順調な仕事のはずだったが、数ヵ月後、大きな失敗が続き、メイヴンにとって最後
になるはずだった仕事で仲間ふたりが殺される。メイヴン自身も命の危機に・・・。
そして明らかになるチームの全貌とロイスの真の意図。事態はボストンを牛耳る3人の麻薬王をもからめて、満身創痍のメイヴンの自らのための、そして親しくなった
ガールフレンドの復讐のための壮絶な闘いのクライマックスへとなだれ込む。
この終盤の、彼が“敵”に立ち向かうガン・アクションのシーンは、「たったひとりの麻薬戦争」とでも呼ぶべき凄惨な描写の乱れ打ちで、読むものを驚愕させる。
本書は、ホーガンが『強盗こそ・・・』で見せた若者の屈折と愛情と同じものを、粉々に打ち砕く現代の病巣「麻薬戦争」を鋭く、ハードに描ききったクライム・ノヴェルの逸品
である。