読書記録64

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二流小説家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ニューヨーク生まれで、映画、出版、ファッション、ポルノ産業でキャリアを積んだ
デイヴィッド・ゴードンが’10年に発表した小説デビュー作。アメリカにおけるミステリーの最高峰、「MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞」の’11年度ベスト・ファースト
・ノヴェル(最優秀新人賞)ノミネート作である。
‘ぼく’ことハリー・ブロックはニューヨーク在住の売れない中年作家。ポルノ、SF、
ミステリー、ヴァンパイアものと、それぞれ偽りの顔とも言うべきペンネームと
著者近影では他人の顔を借りて糊口をしのいできた。そんな‘ぼく’が’09年の4・5月に出くわした事件を初めて実名で綴った手記という体裁が本書である。
きっかけは、12年前に4人の女性を惨殺した殺人鬼で、死刑執行を3ヵ月後に
ひかえたダリアン・グレイからの告白本の執筆依頼だった。ダリアンは‘ぼく’に真実を明かすことの条件として、なんと彼を熱烈に信奉するファンの女性たちをからめた
ポルノ小説を書けといってきた。いやいや女性たちを取材する‘ぼく’だったが、
彼女たちが12年前のダリアンの手口そっくりに猟奇的に惨殺されるに及んで、事態はとんでもない展開を見せる。
過去と現在の残虐な連続殺人事件の謎解きがメインのプロットだが、読みどころは
他にも満載だ。文中作として挿入される‘ぼく’の諸作品の抜粋。‘ぼく’が論じる
文学論や作家論はゴードン自身の経歴のなせる技か。鮮やかに描き出される
ニューヨークの街並みと生活。そして‘ぼく’の切ない恋愛模様
本書は、全編にわたって‘ぼく’の破れかぶれのユーモアが横溢したキャラクター小説であり、いままで味わったことのないような独特の雰囲気を持つミステリーの快作
である。