読書記録72

依頼なき弁護(上) (集英社文庫)

依頼なき弁護(上) (集英社文庫)

依頼なき弁護〈下〉 (集英社文庫)

依頼なき弁護〈下〉 (集英社文庫)

アメリカの中堅人気作家スティーヴ・マルティニによる、弁護士<ポール・マドリアニ>シリーズの’94年発表の第3弾である。
’96年、「このミステリーがすごい!」海外編で同点第12位にランクインしている。
先日、この2月に邦訳された第8弾にあたる『策謀の法廷』(’05年)を読んで、その
読み応えに感銘を受けて既刊の作品を探して読むことにした3冊目である。
前作『重要証人』事件解決からおよそ2年後。『情況証拠』では別居中、『重要証人』
ではよりを戻した、18年間連れ添った‘わたし’ことマドリアニの妻ニッキーが7才の
愛娘セーラを残して肺癌で39才という若さで他界した。3才年下の妹ローレルのことを‘わたし’に託して。ローレルは離婚した夫である州議会議員とその若い再婚相手
メラニーとの間で子どもたちの監護権をめぐって家裁で修羅場を演じていた。
折も折、メラニーが浴室で夜射殺されるという事件が発生。捜査陣は事件発生直から姿を消したローレルを第一級殺人の容疑で指名手配する。‘わたし’は成り行き上
2日後に隣州で逮捕された彼女の弁護を引き受ける。
上巻では、例によって情況的には圧倒的に不利な公判に向けて、重要な目撃証人を捜し求める‘わたし’だったが、その関係者は爆弾で殺され、手がかりをたどって
ハワイまで赴くもののあと一歩及ばなかった。
下巻、このシリーズの読みどころ、切れ者の女性検察官との公判シーンが展開
される。
そして、このシリーズのお約束、最後の最後に瞠目の“大どんでん返し”、さらに、
殺し屋との攻防の果てに思いもよらぬ真相が待っていた。とにかく読者は意表を
つかれっぱなしだ。
この、俳優のジョージ・クルーニーを彷彿させる眼光鋭い知的な容貌のマルティニは、‘わたし’の目を通したアイロニーに満ちた人間観察と博識な訴訟知識、とりわけ今回は政治と医学の知識も動員して、二転三転、いや四転五転する、シリーズ屈指の雄編を紡ぎだした。