読書記録71
- 作者: スティーヴマルティニ,Steve Martini,白石朗
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1994/06/01
- メディア: 文庫
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先日、この2月に邦訳された第8弾にあたる『策謀の法廷』(’05年)を読んで、その
読み応えに感銘を受けて既刊の作品を探して読むことにした2冊目である。
前作『情況証拠』の事件解決から7ヶ月。‘わたし’ことマドリアニは、キャピタル郡の
河むこうのダヴェンポート郡で、病に倒れた幼少時からの友人・マリオに依頼されて
臨時の地区首席検事をつとめていた。おりしも<プタ・クリーク連続殺人事件>が発生し、二組の大学生カップルと大学教授の鳥類学者とその前妻が猟奇的に殺害されたのだ。容疑者が物的証拠から浮かび上がり、‘わたし’は本来の弁護士という仕事から攻守ところを変えてこの案件を検事として指揮をとることになる。
初めから困難の連続であった。容疑者のカナダへの国外逃亡。検事局の無能な同僚の妨害とさえ言える邪魔と情報の漏洩。犠牲者遺族の地区実力者や‘わたし’と因縁浅からぬ判事と、郡の政治的圧力。そしてなんといっても容疑者の弁護人はかつて
偽証買収罪で5年間の法曹資格剥奪をくらった、‘わたし’に逆恨みを持つ男だった。本来公正であるべき裁判に私情がこれほど絡んでいいものか、と思わせるくらい
‘わたし’の鋭い、時には諧謔的な対人観察叙述と権力に対するプレッシャーが全編にわたって述懐される。
一連の事件を同一犯としたがる者たちを相手取って、三組目の殺人は別の模倣犯
であるとする‘わたし’サイドが、決め手となる“重要な証人”を追って最後の逆襲に
転ずる。
ストーリーは、ラストのその模倣犯である意表をつく真犯人の判明と、直接の暴力的
対決のクライマックスまで、それこそ一分の隙もないサスペンスの連続で読者を
惹きつけて離さない。マルティニ自身執筆には「苦労させられた」と言わしめただけの見事な作品である。