読書記録70

wakaba-mark2011-05-11

情況証拠〈上〉 (角川文庫)

情況証拠〈上〉 (角川文庫)

情況証拠〈下〉 (角川文庫)

情況証拠〈下〉 (角川文庫)

アメリカの中堅人気作家スティーヴ・マルティニによる、弁護士<ポール・マドリアニ>シリーズの’92年発表、マドリアニが初登場する第1弾である。
先日、この2月に邦訳された第8弾にあたる『策謀の法廷』(’05年)を読んで、その
読み応えに感銘を受けて既刊の作品を探して読むことにした1冊目である。
カリフォルニア州の州都サクラメント。‘わたし’ことポール・マドリアニは、10年以上前はキャピトル郡の地方検事局で検察官として勤めていたが、弁護士に転身、3年間
所属した大手法律事務所を1年前に訳あって辞め、今は独立した個人事務所を
構えている。妻は3才になる娘のサラ(2作目以降はセーラと訳されている)を連れて出て行き‘わたし’とは別居状態。
かつての職場である大手法律事務所のボス、ベンジャミン・ポッターが口中でショット
・ガンを一発という謎の死をとげた。‘わたし’は彼と前夜会ったばかりで当夜も会う
約束をしていた。しかも彼は法曹界の最高峰・合衆国最高裁判所の裁判官に内定
していた。捜査陣は自殺を装った他殺と断定。ベンの若い妻タリアを第一級謀殺で
逮捕・起訴した。かつてタリアと不倫関係にあった‘わたし’は、複雑な心境で彼女の
弁護を引き受ける。目撃者も物的証拠もないに等しいが情況証拠だけはタリアに
圧倒的に不利なこの裁判で‘わたし’は彼女の無罪判決を勝ち取るべく検察側と死力を尽くして闘う。
本書では、起訴、予審、陪審員の選定、公判(主に証人の尋問と検察・弁護両方の
陳述)と、ほぼ順を追って、‘わたし’の目と心理状態を通して、現在形で細部に
わたってリアルに描かれ、それがストーリーの現実的な緊迫感を見事に生み出して
いる。
また、サイドストーリー―郡の検屍官の娘の死と、高級コールガールの訴訟案件―
が真相にいたる伏線となっていたり、‘わたし’の家庭生活が適度に垣間見えたりと、巧みなプロットも読みどころである。
本書は、なんとも次作が楽しみになる本格的な迫真の法廷サスペンスである。