読書記録73

wakaba-mark2011-05-20

裁かれる判事〈上〉 (集英社文庫)

裁かれる判事〈上〉 (集英社文庫)

裁かれる判事(下) (裁かれる判事) (集英社文庫)

裁かれる判事(下) (裁かれる判事) (集英社文庫)

アメリカの中堅人気作家スティーヴ・マルティニによる、弁護士<ポール・マドリアニ>シリーズの’95年発表の第4弾である。’01年にクリス・ノース主演でTVドラマ化
された(写真右上)。
先日、この2月に邦訳された第8弾にあたる『策謀の法廷』(’05年)を読んで、その
読み応えに感銘を受けて既刊の作品を探して読むことにした4冊目である。
前作『依頼なき弁護』事件解決から約1年後。‘わたし’ことマドリアニは、第1作
『情況証拠』での因縁の仇敵アコースタ郡裁判所判事、「縮れ毛で肌が浅黒いという
外見なのに、中身が雪のように真っ白だということで“スペインのココナツ”と呼ばれている」(『情況証拠』上巻80ページ)の弁護を彼の妻リリの強引な要請で引き受ける。アコースタは、警察の風俗犯罪課の囮捜査にひっかかり、売春教唆容疑で逮捕され、さらにその囮をつとめた警察科学専攻の女子大生が殺害されるに及んで、第一級
謀殺の容疑者として起訴されたのだ。
情況および物的証拠で不利なこの裁判をめぐっては、‘わたし’は第2作『重要証人』で同僚だったルノーゴヤ郡検事補、「ほっそりとした長身、肌は浅黒くファッションモデルのようなすっきりとした鼻筋と張りだした頬骨」(『重要証人』上巻86ページ)本書では首席検事と折り合いが悪く馘になり‘わたし’の事務所の弁護士となった彼女が重要な役割を演ずる。また、‘わたし’はシリーズで初めて“危うい綱渡り”のような“禁じ手”を使うのだった。
読みどころは例によって下巻の大半を占める法廷シーンである。検事側の論証で局面が変わり、次いで‘わたし’の弁護側の証言でまたがらっと局面が一転する。
さらに本シリーズの特長である、法廷での勝敗もさることながら、ラストのラストで
真犯人を暴かれる“謎解き”の興趣も見逃せない。とりわけ本書では、被害者の
私生活とその5才の娘の証言、警察労働組合内部の不正・腐敗と、冒頭から最後まで伏線がよく効いている。
本書は、マルティニの繊維、眼科、金属科学の専門知識の綿密な取材を活かした
緊迫の法廷シーンと、驚愕の真犯人と逆転勝利の意表をつくヒントが読む者を
捕らえて離さない秀作である。