読書記録78

キリング・フロアー〈上〉 (講談社文庫)

キリング・フロアー〈上〉 (講談社文庫)

キリング・フロアー〈下〉 (講談社文庫)

キリング・フロアー〈下〉 (講談社文庫)

英国の作家リー・チャイルドが、アメリカを舞台に、元米軍憲兵隊少佐を主人公とした
’97年発表のデビュー作であると共に、現時点で15作が上梓され、4作が邦訳されているニュー・ハードボイルド<ジャック・リーチャー>シリーズの記念すべき第1作
である。
世界最大のミステリー・コンベンション「バウチャーコン」で大会参加者の投票で
選ばれる賞「アンソニー賞」の’98年度ベスト・ファースト・ノヴェル(最優秀新人賞)と、’97年に創設されたアメリカのミステリー専門季刊誌≪デッドリー・プレジャー≫が主催する「バリー賞」の’98年度ベスト・ファースト・ミステリー・ノヴェル(最優秀
新人賞)をダブル受賞している。
本書で‘私’ことジャック・リーチャーは、ドイツやフィリピンや極東など世界各地にある米軍基地を渡り歩いて、13年間“軍の警察”憲兵をしていた36才、“北極海の氷山のようなブルーの目をした”身長195センチ、体重95キロの巨漢で、疎遠の兄以外家族も友人もなく、仕事も住所も私物も持たない放浪者として初登場する。
時は9月。舞台は米深南部(ディープ・サウス)ジョージア州の州都アトランタ近郊の
片田舎の架空の町マーグレイヴ。62年前に他界した伝説のギタリストを偲んでふらりと立ち寄った‘私’はいきなり逮捕される。昨深夜にある男が射殺された容疑だった。身に覚えのない‘私’だったが、目撃証言があり、もうひとりの重要参考人である
銀行員と共に刑務所にぶちこまれる。
やがて、容疑が晴れた‘私’だったが、なんという偶然、殺されたのは7年前母親の
葬儀で会ったきりで首都で財務省の捜査官をしている実の兄だった。‘私’は地元警察に協力し、軍時代に培った人並みはずれた観察力と演繹的な推理力でそこで
行われている、町を支配する大規模な犯罪をつきとめる。
タイトルの『キリング・フロアー(殺戮の床)』の通り、秘密を守るための“敵”の残虐な
処刑。対する‘私’は、驚くべき鋭敏な頭脳の持ち主というだけでなく、素手で4、5人をひとりで殺すことは朝飯前。射撃の腕も非凡なタフガイとして激しいアクションも
演じる。転がる死体もハンパではない。
本書は、肉体も頭脳も強靭でありながら、ブルースを聞くことが好きで、ロマンティストでもある“愛すべき稀代のヒーロー”の魅力を存分にフィーチャーした一冊である。