今日読み終えた本

手のひらの蝶 (角川文庫)

手のひらの蝶 (角川文庫)

怖い話だった。ミステリーというよりホラーの範疇に入るのではないか。
著者のデビュー作である’00年度「横溝正史賞」正賞受賞作『DZ』は、人類の進化という壮大なテーマを浮き彫りにした医学系のSFミステリーだったが、長編第2作の本書ではさらにそれを発展拡大している。
「昆虫人間」(こう書くといかにも陳腐な感じがするが、著者は感染による脳内の腫瘍の発現、および遺伝子の変化というように、その存在をきわめて科学的に説明している)と化した殺人鬼が、一定の周期ごとに吸血殺人を犯すといった、医学テーマに基づくサイコホラーサスペンスである。
また9歳の子どもが母親を殺害して、綜合児童福祉センターに預けられるといった児童犯罪の問題も本書のショッキングなテーマのひとつとなっている。しかもその少年も吸血殺人の真犯人も幼少期、「親子の絆の喪失」、つまり母親の愛情が薄かったという共通点を持っており、私は8月18日付当ブログの『ひきこもりと家族トラウマ』と相通じるものを連想した。
それもそのはず、著者は東大哲学科中退後、京大医学部を出た現職の精神科医であり、本名で『人格障害の時代』、『悲しみの子どもたちー罪と病を背負って』など多数の著書を発表しているという。
なるほど、これほどの医学サスペンス物語を書き上げるほど、凄く頭の良い人なのである。