今日読み終えた本

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

誘拐ラプソディー (双葉文庫)

8月21日の『明日の記憶』、9月12日の『神様からひと言』に続いて荻原浩3回目の登場である。
38歳の伊達秀吉は、金ない家ない女いない、あるのは借金と前科だけという男。4月初めの土曜の朝、勤め先の親方を殴って、金とクルマを奪って自殺しようと、とある丘の上にやってきた。そこで勝手にクルマに乗り込んできた6歳の少年伝助を誘拐したことにして、5千万円せしめようとするのだが。あろうことか伝助はヤクザの組長の一人息子だった。
おかげで秀吉は、当のヤクザはおろか、チャイニーズマフィアや警察にまで追われる、世界一運の悪い誘拐犯人となってしまう。
物語は秀吉のドタバタ逃走劇を縦糸に、そしていつしか芽生える伝助との友情というかキズナというか、心のふれあいを横糸に展開してゆく。脇役のヤクザの幹部やマフィアのボス、それと刑事たちも、それぞれ何かを抱えていて人生の悲哀がうかがえ、魅力的に描かれている。
荻原浩の作品らしく、たっぷり笑えて、それでいてなんとなくほろ苦く、人情味あふれる物語だ。