今日読み終えた本

果てしなき渇き

果てしなき渇き

きのうの『サウスポー・キラー』と「第3回『このミステリーがすごい!』大賞」大賞を同時受賞したもうひとつの作品。
物語は元刑事で現在は警備保障会社に勤める主人公藤島が、別れた妻から高校3年の娘が失踪したと知らされるところから始まる。
娘を捜し求めるうちに、徐々に“闇の奥”へと遡行していく父。娘は一体どんな人間なのか――。ひとりの少女をめぐる、男たちの狂気の物語。その果てには……。
これ以上ないほど暗い、登場する人たちが誰一人救われない、希望のかけらもない物語。
馳星周の書く『不夜城』を初めとする作品ジャンルを「暗黒小説」と呼ぶことがあるが、本書こそ、その呼び名がぴったりと来る作品。
次に掲げる著者からのコメントがすべてを物語っている。
「私の青春は暗かった。『果てしなき渇き』では、そんな過去を嫌々思い出しながら書いた。これは孤独と憎悪に耐えかね、疾走する人間達の悲しみを描いた作品である。友愛や和気を著しく欠いているために、激しい拒否感を抱く方もいるだろう。けれど同時にこの小説の世界に共感を覚える方もきっとどこかにいてくれるはずだとも思う。なぜなら慈愛に満ちた世界を疎み、燦々と輝く太陽に向かって唾を吐きたいと願う人間は、私だけではないはずだと、固く信じているからだ。」
私が思うに、本書が「このミス大賞」を受賞したのは
1.もうひとつの大賞受賞作『サウスポー・キラー』とバランスをとるため。『サウスポー〜』一作品だけではインパクトに欠けるため。
2.文章力、表現力が新人離れしているため。短く切り詰めた文体で次々につむぎだされてゆく文章は、物語の内容はともかくとしても、「読ませる」。失踪した娘を現実の時間軸上には一度も登場させずに、その実像を徐々に浮かび上がらせてゆくテクニックも優れている。
著者には次の機会にぜひ別の題材でその小説家としての能力を生かしてもらいたいと思った。